自分の給与を自分で決定する

2019.10.16

セムコ社が、世界的にもかなり早い段階で取り組み始めた、社員が自分の給与を自分で決定する。という制度について詳細の記事を紹介します。

果たしてそんなことは可能なのでしょうか?

どうやれば社員が自分の給与を、適切に、自分で決めることができるのでしょうか?

こちらは、セムコスタイルの「セルフマネジメント(自主経営)」の原則に関する一つの事例になります。

ーーセムコ社ツールキット記事よりーー

“セムコの様々な施策の中でも、最も様々な意見を集めるのが「従業員が一人ひとり自分の給与を決める」というものです。専門家たちはすぐに、人間の根源的な性質についての見解を持ち出し「自分で決める自由を与えたら、人は皆、妥当な値段よりも高く自分を値付けする」と言ったりします。そういった人たちは、seven-day weekend (毎日が週末)の考え方で「一人ひとり自分の勤務スケジュールを決められる」としていることについても同じように批判するのです、「そんなことをしたら、いつまで経っても出社しない、あるいは遅い出社ばかりになる、あるいは短時間しか働かない人で溢れてしまう」と。しかしセムコ社の経験においてそんなことは一切起きていません。 – リカルド・セムラー “

概要

組織内で働く各個人がそれぞれいくらもらっているかが秘密になっていることは、人々のエンゲージメントを阻害する要因として強力です。7万1千人の企業で働く人々を対象とした調査 PayScale surveyを読むと、給与の非公開が従業員のエンゲージメントに与えるネガティブな影響に驚かされます。驚くべき回答者の82%が、「理由が分かっていれば自分の給与が標準より低くても構わない」と答えており、回答者の67%が、「会社は自分に市場標準の給与を支払っているといっているが、実際には払われていない」と主張しています。そして、「妥当な額を下回る給与しかもらえていないと感じている」と回答した対象者の60%という驚くべき高い割合の人間が「まもなく仕事を辞める可能性がある」と答えているのです。

給与について話すことをタブーとする空気は、「会社=親、従業員=子供」という認識から派生している現象です。会社が従業員一人ひとりを「成熟した大人」と見なさず、「従業員自身が給与を決めるなんて、彼らはそんな判断能力を持ち合わせていない」と従業員のautonomy(自主自立)を制限しているのです。マネージャー層は往々にして、「自分の部下たちは、自分の給与を同僚に知られたくないはずだ」と思い込んでおり、給与についてオープンに話し合いなどしたら、様々なスタッフが分別なく「辞める」といったようなばかげた結論を出しかねない、と信じ込んでいるのです。こういった様々な勘違いが絡み合い、マネージャー達は良かれと思って給与について部下と話をするということを避け、部下たちは給与という面において「見えざる手」にコントロールされているように感じる状況が引き起こされているのです。

そんな中でもBuffer(バッファー社)、SumAll(サムオール社)、WholeFoods(ホールフーズ社)などの企業が、給与を隠し立てする必要などないことを証明し始めました。給与に関連する情報についていつでも誰でもアクセスできるようにすることが従業員のエンゲージメントを高め、企業カルチャーにポジティブなインパクトを及ぼすということが明らかになってきたのです。そしてセムコ社は、「従業員の給与の完全なる透明性」をどこよりも先駆けて実現した企業です。30年も前から、セムコ社では従業員一人ひとりが自分自身の給与を設定してきました。様々な役割、職務についての市場における給与値幅を信頼たる外部調査会社がまず洗い出し、従業員は自分の役割、職務の市場における給与レンジの幅の中で自分が妥当だと思う額に自らの給与を設定するのです。このようなやり方が提案された当初は懐疑的な声が非常に多かったものの、結局、セムコ社のユニークな企業カルチャーの稀有さをさらに一段と押し上げるのに非常に重要な役割を果たす施策となりました。

内容

なぜその額なのかという理由を合理的に説明できる限り、従業員は自分の給与を自分で決められるシステム

なぜやるのか?

従業員一人ひとりに自らの給与を決定する権限を与えるということは、企業カルチャーに大きな影響を与える以外に、組織中の人々に素晴らしい学びの機会を提供します。人は大抵、本来もらうべき額よりも低い給与しかもらっていないと感じているものですが、何か比較できる数字やデータを根拠に言っているわけではなかったりします。なんとなくそう感じているのです。そんな中、会社側が労力を惜しまず様々なデータを集約しあらゆる役割、職務の給与について市場の平均値幅を情報として提供すると、それに応えるかのように従業員の生産性とエンゲージメントが劇的に向上します。自分のもらっている給与の妥当性(公平かどうか)を判断するために必要なあらゆる情報を提供され、エンパワーされていると感じるからです。

どのように?

経営陣・マネージャー層の支持を取り付ける:こうした取り組みを行う前に、経営陣・マネージャー層の支持をとりつけておきましょう。なぜならこれを実施するにあたっては、彼らの時間・労力・リソースを非常に多く要するからです。経営陣・マネージャーの多くが懐疑的である可能性も高く、だからこそ、この施策が「生産性」と「企業カルチャー」に明確なインパクトを与えることを示していく必要があります。

どんな競合をベンチマークとして調査するかコンセンサスをとる(合意する):外部パートナー企業に、様々なポジション(役割・職種)の市場における給与値幅の調査を依頼する前に、市場平均と共に「具体的にどんな他企業」の給与レベルを調査に含めてもらうかを社内で合意する必要があります。ここで加えられる他企業(競合)をどこにするのかについては、経営陣・マネージャー層と現場のメンバー両方からの意見が反映される必要があります。

信頼できる外部パートナー企業に調査・報告を依頼する:調査を依頼する外部パートナー企業は、社内に存在するあらゆるポジション(役割・職種)に関する各種業界の給与の市場平均値と金額額帯(レンジ)を明らかにし、また調査対象としてリストとして提出された他企業(競合)について、これらの企業では該当するポジション(役割・職種)の給与がいくらかであるかを特定し、報告することになります。それらの結果は「業界別平均値」と「対象企業給与レベル」というマトリックス上にマッピングされる形で視覚的に整理されます。ここで出てくるデータが非常に深く調査された信頼足るものであることが非常に重要です。

メンバーとの一対一の個人面談で、各種調査結果について議論をする:従業員一人ひとりと1対1の面談時間を設定し、本人のポジション(役割・職種)に関する関連データを一緒に見ていきます。その中でぜひ「こうした情報を全て知った上で、自分の今の給与については率直にどう感じますか?」や「今の自分の給与設定はフェア(公平で納得感がいくもの)だと思いますか?それとも調整が必要だと感じているでしょうか?」などという質問をしてみましょう。

各従業員に自分の給与を決めてもらう:全従業員が、調査の結果出てきた情報・データすべてにアクセスできる状況を作りましょう。そして、誰もが安心してこれらの情報を見て自分の給料を見直せるようにするのです。例えば、自分の給料が現在27万円/月であるのに対し、同じポジション(役割・役職)の市場給与値幅が30万円-39万円/月であるというデータがある場合、自分の給与を33万-35万/月のパフォーマンスによる変動値幅に設定すると決定してもよいのです。逆に、ここで自分の給与を60万/月に設定することはできません。合理的なロジックで説明されえない給与の提案に関しては即却下であるべきです。

大きな乖離を埋めるべく、様々な形に分散してその差額を補填する:あるスタッフが市場の給与値幅よりもずっと低い給与しか手にしてないと判明した場合、市場レベルまで年間の総給与額を上げるわけですが、その差額については、単純に月額固定給与(給料)を上げることで担保するのではなく、固定給与(月額給料)と変動要素(成果報酬型ボーナスなど)全体で担保されるよう様々な要素を組み合わせて担保するようにしましょう。例えば、以前、変動ボーナスが最大で月額給料の1か月分だったところを、1.5あるいは2か月分にするなどということも含めて考えていくのです(単純に月額給料を上げて解決するのではなく)。

市場環境の現状について従業員に学びの機会を提供する:この施策が、単純に各自の給与を市場レベルに合わせて上げ下げするだけの活動になってしまってはいけません。給与を上げる、現状のまま維持、あるいは珍しいケースですが下げる、というような様々なシナリオがあり得るわけですが、ぜひこの機会を、給与に関する様々な観点を議論し理解を含める、決定された額に納得感を醸成するための機会にしましょう。外部パートナー企業が取りまとめたデータや資料を活用することで、経営層・マネージャー層と現場スタッフの間で行われる給与交渉を超える場にするのです。透明性のある組織としての実践の機会であると共に、本人にとっては「もし今の会社を辞めたら自分がどれくらい稼げるのか」を知る学びの機会にもなります。人は自分の給与の額がとにかく「自分のパフォーマンス」によって定義されていると思いがちですが、「ポジション(役割・職種)」×「自分のパフォーマンス」なんだということを明確に理解するようになるのです。

導入難易度

高難度

やるべきこと

– 市場平均や他社の数字についてのデータの提供は信頼の置ける外部パートナー企業に依頼する

– 透明性の高い議論の場を作る

– 給与について自分が感じていることを率直に言えるような安全な1対1の場を作る

– 自分の考えを主張する上では合理性のある事実・データに基づいた話をする

やってはいけないこと

– 一人ひとりの状況を精査しての給与変更ではなく、全員一律の変更を行う

– 正当化する理由がない事柄を受け入れるようにプレッシャーをかける

– 誰かが自分の給与の見直しをする機会において、その人の要求を呑まなければならないというプレッシャーを感じる

– 給与について話せないこと、タブーな領域を残す

メリット

– 従業員一人ひとりの給与レベルが、市場標準とアラインする

– 給与における業界・市場標準との格差の最小化

– 給与にまつわる不満について透明性高くオープンな会話がなされる

– 会社が物事を公平・適切に理にかなった形で定める意思を持っていることが伝わる

– 従業員一人ひとりが、「市場の現状」「自分自身の市場価値」を知る・学ぶ機会となる

– 人々の給与に関する根拠のない話や、あてずっぽうな決定がなくなる

– 給与というトピックがタブー(触れてはいけない話題)でなくなる

デメリット

– 会社の経営陣・マネージャー層のかなりの時間・労力の投資が必要

– 外部パートナー企業への調査依頼にかなりの費用がかかる可能性がある

– こうした一連のプロセスを経てもなお、自分の給与に不満を持つ人々が存在する可能性がある

 ケーススタディ(事例)

「業界のベンチマーク企業の給与水準の情報を元に従業員一人ひとりが自分の給与を設定する」という施策がセムコ社で導入された約30年前、従業員の一人であったホセ・ビオリ氏の決断に周囲一同びっくりさせられることとなった。市場調査を行った結果、彼の給与がやっているポジション(役割・職種)の業界水準給与よりもかなり低いことが判明。そこで会社から、業界水準レベルまで給与を上げることが提案された。だが彼は「僕は今もらっている給与で十分満足しているので結構です」とその提案を断った。経営陣はそれでも昇給を粘り強く提案し続けたものの、結局彼はたった一人の昇給を断った人物となった。今現在彼は、セムコパートナー・ホールディングの筆頭株主の一人になっている。

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取締役会に一度参加してみる

2019.10.15

セムコ社の事例の一つに、社員が誰でも取締役会に参加できる。という制度があります。

それはどんな思想のもと、どのように行われているのでしょうか?

取締役会に参加できるようにするその真意は?

セムコスタイルの「信頼」の原則に関する事例の記事を公開いたします。

ーーセムコ社ツールキット記事よりーー

“この施策を展開することが何に繋がるか、どんな力の分配や共生が生まれるのかを正確に知る者はいないだろうが、取締役会メンバー以外の社員が取締役会に参加することで、経営陣は自分たちの様々な矛盾や言行不一致と向き合うこととなり、参加した社員は、自分の意見に耳を傾けられるこの機会によって効力感を感じられるようになるのです。経営陣は自分たちの会社の従業員の存在も、彼らが主張すること・要求することも決して恐れて戦々恐々としてはいけないのです。現実に向き合わないで従業員の声を制圧することよりも、そこに正面から向き合って彼らの声に耳を傾けるほうが遥かに素晴らしい結果をもたらします。 -リカルド・セムラー”

概要

私たちの中にある「取締役会」のイメージは、世の中に溢れるイメージに洗脳されています。-大きくて立派な取締役会専用会議室、ビシッといかついスーツで固めた取締役たちの占有する場所、白熱した議論がされているらしいが、その音が漏れ聞こえてくることは防音壁によって一切ないので、中で何が話され、何がどう決められているのかはさっぱり見当がつかない…。経営トップ陣営が決めることは常に最上級機密事項とされ、その内容の詳細が公になるのは、企業による不祥事が発覚して世間がその詳細を求めたときのみ、ということがほとんどです。

企業ではたらく従業員の多くは、取締役と呼ばれる人々と直接知り合う機会すらほとんどありません。よって、「会社でなされる様々な決定事項は自分たちスタッフを知らない人たち、僕らに関心がない人たちが決めている」というような思いを抱きがちなのです。そして、経営陣の決める経営方針の背景にある合理性や思考を本当の意味で理解できている社員もほぼいないのが現実、といってよいでしょう。

会社の戦略について「策定する人たち」と「現場で実行する人たち」という分けが存在している状態は従業員エンゲージメントという観点で望ましい状態と言えません。現場の最善線にいる従業員一人ひとりが会社から提案される戦略を理解できない、あるいは自分の仕事に結び付けられない状態では、どんなに素晴らしい戦略があってもその遂行が高いレベルで行われることを望めません。

内容

従業員の誰でも取締役会に参加できるよう、毎取締役会に1席空いている席を用意する。

なぜやるのか?

自分が会社の経営戦略の一端を担えたとした時に従業員が感じるであろうエンゲージメントのレベルを想像してみてください。経験値やヒエラルキーのどこの階層にいるか関係なくあらゆる社員が会社のこれからを考える場に参加する機会を与えられると、従業員たちは会社の戦略策定の一部であると感じるようになります。そして何よりも、取締役会の一席を常にあらゆる社員が座れる席として空けて、取締役会議への参加を促すというその姿勢が、組織全体に対して非常に強力なメッセージを放つのです。そこから従業員は「経営陣が何も隠していないこと」「経営陣が透明性高い経営をしようとしていて、管理職層と現場社員のパワーギャップ(権力の格差)を縮小していること」を感じ取るのです。また、通常業務では現場に出ずっぱりで本社やオフィスに近づくことのないメンバーにとっては、経営に参画している感覚を肌で得る機会にもなります。

どのように?

全取締役メンバーの賛同を取り付ける:この施策を展開する前に、全取締役メンバーが賛同している状態を作る必要があります。いくらか懐疑的あるいは否定的な意見が出ることは想定の範囲内ですが、透明性を追求する取り組みの長期視点での価値を認められるメンバーが取締役として残っていくことになります。ずっと賛同しないメンバーがいるとすると、大きな組織的変化の中で自然に淘汰されていくことになるでしょう。よって、こうした取り組みによって取締役会の顔ぶれが変わっていくという未来も想定しておく必要があるでしょう。

取締役会に1席空席があることを全社にアナウンスする:全取締役の賛同を取り付けられ次第、本施策を全社にアナウンスしましょう。「今後、取締役会には常に1席空いている席が用意されることとなり、そこには従業員であれば「誰でも」座る権利がある」というニュアンスを伝えるのです。最初は「また会社が何かを言っている」と信じないスタッフもいるでしょうし、これまで全く透明性のない経営をしていたとすれば、懐疑的な見方をする従業員あるいは混乱するメンバーも出てくるかもしれません。そんな中でも、とにかく「インターン」から「シニア経営層」まで、どんな従業員にもその席に座る権利があること、次回取締役会に参加したいと思えば、今後いつでも申し込むことができることを明確に伝えていくのです。

空席参加申請プロセスをシンプルなものにする:いくら仕組みを作っても参加意思(取締役会出席への応募)の表明プロセスが非常に複雑な分かりにくいものではそもそも意図する「誰でも参加が可能なもの」になりません。参加してどんな場になるのかの想像もつかないようなもののために、分かりにくい大変なプロセスを乗り越えてまで参加意思を表明しようとは誰も思わないからです。だからこそ、参加の意思表明プロセスをシンプルなものにすることが極めて重要です。興味を持った人物は、人事部あるいは取締役会を管轄している部署に簡単な応募フォームを送り、各部署はその応募フォームの内容確認後、出席可能か不可能かの返信を本人に返すといった形です。

従業員が参加するにあたってかかる経費全てを会社が負担する:もう一つ、このような施策があっても参加者を躊躇させてしまうのは、参加にかかる経費を自己負担としてしまうことです。取締役会のために長距離移動をしなければならないような場合は尚更です。参加が決まったスタッフが取締役会に出席するために必要となる旅費や宿泊費に関しては全て会社が負担するという方針を伝えておきましょう。

取締役会中・・・: 空席に座るべく出席したスタッフに対しては、本人の入社歴や経験に左右されない丁寧で敬意をもった対応が必要です。参加するスタッフはまず間違いなく、会社の中でも重役と言われる人たちに囲まれて圧倒された気分になっているはずです。そんな中、本人が居心地よく歓迎されていると感じられるかどうかは、取締役会メンバーの責任です。新しく入ってきた人間にも分かるように議論を進める、空席に座ったメンバーの議論への参加を促す、など出来ることは沢山あります。とはいえ多くのメンバーはそう簡単に議論に参加することができないでしょう。それでもいいのです。取締役会に実際に現場の社員が参加したということ、そしてそこで体験したことを職場にかえって周囲に伝えるということが組織全体にとって大きなインパクトを持つことになります。

これ以外の透明性に関わる施策も同時並行で進める:取締役会の公開が唯一の透明化促進の施策になってはいけません。これ以外の様々な透明化に働きかける施策と相乗効果を出していく必要があります。全社/部署/チームミーティングで、経営方針・戦略について触れているような様々な情報を共有していく、ということもできることの一つとしてあるでしょう。取締役会で議論される重要なトピックの一つは経営数字です。よって、経営数字をまず様々な場で全社員に公開・共有していき、数字を読むための教育を提供していく、ということも同時並行で行われるべきことです。こうした形で進めていくと、もはや取締役会「でしか」取り扱われない議題、というものがなくなっていきます。よって、取締役会各回に参加する1名ずつだけでなく、全従業員が会社経営・組織運営にとって重要な情報にアクセスできること、それがきちんと周知徹底されていることが重要です。とはいえ、情報過多になるとすべてを消化することができず、生産性にも悪影響を及ぼしかねないので、「どんな」情報を「どの程度」提供するのかの最適解を見つけていかなければいけません。

非常に繊細なトピックについては、別のミーティング形式で議論する場を設ける:透明性の徹底は非常に重要ですが、同時に組織の中には「極度に繊細な」情報というものも存在します。そういった情報が含まれたトピックはこの定例取締役会では取り扱わないという配慮を行うのが賢明でしょう。そういった極度に繊細な取り扱いに気を付ける必要があるトピックについては、臨時取締役会を収集し議論・決定を行えばよいのです。とはいえ、全社が会社の様々な数字にアクセスする状態が確立されているようであれば、そんな風に繊細なものとして特別な取り扱いをするまでもなく、既に従業員は何か特別な状況が起きていると気が付いていておかしくありません。

「情報漏洩」のリスクに関しては、信頼の壁を作り、そこへの不安は一掃させる:この施策を行う上では、「参加した従業員が競合に大事な情報を漏らしてしまうのでは」という疑念や不安ではない「信頼」と「安全」の空気を作りだすことがとても重要です。世の中で語られる「情報漏洩」がもたらしうる企業への甚大な被害は幻想です。情報が漏れたとしても競合がその情報を使ってできることは極めて限られており、相手方としてもそんなに待ちわびていることでもありません。「情報漏洩の心配なんてしなくて大丈夫だ」と言い切るぐらい従業員を高いレベルで信頼することで、多くの人間は、そんな信頼をされている中で情報を漏らすことも、競合に売ることも、意味がないと考えるものです。

導入難易度

中難度

やるべきこと

– 取締役全員の賛同を取り付ける

– 従業員一人ひとりが会社から歓迎されている、欠かせない一員と考えられていると感じる

– 様々な議論をみんなが参加できる友好的なものに保つことができる

– これ以外の透明性に関わる施策と並行して実施できる

– 従業員は会社の情報を「漏洩」させたりしないと信頼を置く

やってはいけないこと

– 取締役会の1席への申し込みのプロセスを複雑な、あるいはお金のかかるものにする

– 非常に繊細なトピック(情報)について議論する

– 万が一情報「漏洩」が起こった時に状況がひっくり返ると過度な心配をする

メリット

– 全社に向けたとてつもなくパワフルなメッセージとなる

– 従業員の間にポジティブな空気や好奇心が生まれる

– 従業員の仕事に対するモチベーションを劇的に向上しうる

– 従業員のエンゲージメントと主体性が高まる

– 明確な形で階層間の距離が縮まる(パワーギャップが縮小する)

デメリット

– 導入を提案した際に、取締役会メンバーから反対の声が上がる可能性がある

– 非常に繊細な情報が望ましい速度よりも早く組織全体に広まってしまう可能性がある

– 入社して間もない社員にとっては実際に参加するにはかなりの勇気が必要な可能性がある

ケーススタディ(実例)

今現在セムコ社の営業部署で働いているダニーロ・セラフィーニは、この施策が導入された時インターンだったといいます。当時の彼は、インターンという立場ではあったものの、「この機会を活用して取締役会というものに一度参加してみよう」と決めました。彼が出した出席希望申請は承認され、当日取締役会の会議室に入った瞬間は、その場の雰囲気に圧倒され、たじろいだことを今でも覚えているそうです。一人のインターンが大企業の取締役会に単身乗り込んでいる。そんな現実に急に気がついて、彼の中で与えられた機会を果たして無事乗り切ることができるかさえ分からなくなってきました。ですがミーティングが進む中で彼は、自分という存在がきちんと会議の一部とみなされ、取締役員全員からきちんと敬意を払われていることを感じていきました。当時ビジネス経験もないインターンだった彼が、経営についての議論において意見を述べて貢献できるところはその日ありませんでした。けれど何十年と経った今でも彼は、経営陣のしていたその場の議論が非常に納得感のあるものであったこと、その場で話された会社が次に打って出る策が非常に考え抜かれたものであったことを覚えているといいます。ビジネス経験がない彼でも、きちんと話の筋や論理を追えるような分かりやすい形で進行がなされ、彼でも話についていくことが可能な経験となったのでした。

次の事例も、本当に自分が参加できるとは思っていなかった人物が取締役会に参加を果たしたケースです。ギルハーメ・ギッソンはその当時リオデジャネイロの地で勤務をしている人物でした。そして、取締役会がサンパウロの本社で行われていることは分かっていましたが、まさか自分が選ばれるとは思わないまま、興味に駆り立てられてある取締役会の参加希望の申し込みをしました。すると、サンパウロ本社への行き方と手配された旅程が書かれたe-mailが送られてきて、「次の取締役会の参加者はあなたになりました」と連絡がきたのです。当時彼は、ある地域の営業支社にいる営業マンの一人でしかありませんでした。ですから本人としても、たとえ取締役会に参加したところで、実質的に企業戦略に関する議論に寄与できるような視点やアイディアはないという認識でしたし、実際にそうだったといいます。けれど何より大事だったのは、会社が公言している通り取締役会への出席の権利を誰にでも平等に与えているということが現実だったということであり、それを経験した彼が周囲の同僚にその驚きを共有できたということです。企業の観点からいってもそれは、議論へのアイディア貢献の100倍といってもいいぐらい価値のある効果です。彼の「実際に取締役会に一度参加した」という事実は、組織全体に「経営陣は言った通りのことをやっている。言行一致している」ということを伝えたのです。

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みんなで財務数字を学ぼう

2019.10.02

自主経営において、社員一人ひとりが、会社の財務について理解していくことは欠かせません。

セムコ社では、どのように清掃スタッフまで会社の財務数値についてトレーニングを行なっているのでしょうか?

「セルフマネジメント(自主経営)」の原則に関する事例の記事を公開いたします。

ーーセムコ社ツールキット記事よりーー

“スタッフ一人ひとりが「期待され(挑戦され)」「イキイキと」「生産的な貢献をしている」状態になれば、組織の利益や成長はそれに派生して自然と生まれてくるものだ。 -リカルド・セムラー”

概要

多くの人々のモチベーション源がお金であるのであれば、なぜ、同時に財務の数字的な報告が始まった途端に眠そうな顔になる人たちが沢山いるのでしょうか?お金に興味があるのだとすれば、自分が所属する組織の業績を理解したいと自然に思うものではないでしょうか?今度のボーナスがいっぱいもらえるのか、はたまたリストラの危機があるのか、業績の数字が何を意味するのか理解できることはそのような人達にとって重要でことであるはずです。そんな中で、財務に関係していない従業員に財務報告についての興味を持ってもらうのがこんなにも難しいのはなぜなのでしょう?

人々が財務報告のプレゼンテーションへの興味を瞬時に失ってしまう理由は、必ずしもプレゼンの仕方や内容にあるのではありません。そこで与えられる情報量が多すぎて、という場合もあるのです。数式・数字というものにアレルギーを持っている人もいれば、エクセルシートに整然と並ぶ数字には全く面白味を感じられないのだ、という人もいます。数字に溢れたプレゼンテーションを一方的に共有されても、多くの人の目は輝かないのです。

けれど、自分の所属する組織の財務データに一度興味を持つことができると、人は経営者のように問題解決に身を投じるようになる、ということを示すエビデンスが世に数多く存在します。自ら会社を作った創業者・起業家のように利益創出の機会を探すようになり、自らの仕事により深いレベルでコミットすることでよりよい成果を上げるようになるのです。

それらを実現する鍵となるのが「簡潔さ(シンプルさ)」です。財務の数字を社員に共有する上で、財務のプレゼンテーションを分かりやすいシンプルなものにし、専門用語や一部の人間しか分からないような数字は省いた組織は、「財務情報を全社員に公開する」というアプローチをより成功裏に実現することができています。掃除担当者から経営トップまでが、数字の裏にあるストーリー(背景や経緯)を理解することができた時、会社の一人ひとりが本当の意味で、組織の状態や行方を「気にしている」状態が作られるのです。

内容

全従業員が組織の業績を理解している状態を作るべく、主要な財務的数字およびKPIについての教育を提供する。職種や理解レベルに関係なくあらゆる人が理解に至れるよう、全員がアクセスできる手法や材料(教材)を用いる。

なぜやるのか?

多くの人間は、財務的な数字と聞くと非常に難しいものだと思ってしまったり、あるいは数字は営業部などの他の部署の問題であって自分に関係しているものではない、と思ったりしてしまいます。はたまた、自分には学がないから、そういった数字は理解できないと思い込んでしまっていることもあるかもしれません。そんな中、企業が財務データを誰にでもわかりやすい形にする努力を行ったり、全従業員に数字を理解できるだけの適切な教育を提供したり、財務データを理解することを積極的に後押ししたりすると、従業員の中で経営に関する当事者意識が促進されます。従業員一人ひとりが事業運営における重要な数字や指標、損益計算書やバランスシート、あるいは様々な収益の流れを理解するようになると、企業経営に自分がどう価値貢献し得るのかを自ら考えられるようになるのです。また、経営陣が行う意思決定についても、その根拠や背景を理解できるようになるからこそ、納得感を持つことができるようになります。

どのように

シンプルでクリエイティブな取っ付きやすい形式での教育:工場で働く人からMBAを取った経営幹部に至るまで、全従業員を対象としたトレーニングセッションを会社の公式な研修とし企画することが重要です。労働組合、そして財務に習熟している人々と協働する形で、どんな知識レベルの従業員にとってもシンプルで取っ付きやすいトレーニング教材を作りましょう。例えばセムコ社では、シンプルな絵と文字で構成されたコマ漫画を使って、会社の業績の核となる重要なKPIだけを説明している教材を使っています。財務の細かい所までの全てについて教育することを目指さないようにしましょう。そうではなく、損益計算書やバランスシートなどのベーシックなコンセプトにフォーカスするのです。ここで目指しているのは、会社が目指す方向に進めているのかどうかを見極めることができるだけの情報の読み取り能力を全従業員に授けることです。年度の序盤に設定した目標全てを達成できそうなのか。難しい選択をすべき危機的状況なのかどうか。とにかく受け手にとって理解しやすい形式のトレーニングセッションを、分かり易い教材を用いて行うことが重要であり、従業員の意欲を瞬時に削いでしまうようなつまらなくて難解なお決まりの企業財務プレゼンテーションなどとは似ても似つかないものにしなくてはなりません。

 

メンタリングを介して財務に関するリテラシーを積み上げる:全従業員に会社の財務的数字の読み方と解釈の仕方を教える公式なトレーニングセッションとは別に、財務情報読み解きのためのメンタリングのカルチャーを構築していくことが重要です。セムコ社では、本部の人間も現場のオペレーショの人間も、チームリーダー、あるいは財務情報に習熟した他メンバーから、財務情報の読み解きについてのメンタリング(指導)を受けます。これら指導をする側のメンター達は、会社の各数字の裏にある重要なメッセージ(洞察)を新人が理解できるよう、教え、サポートしていく役割を担っています。メンタリングは1対1あるいは少人数グループ形式で行われ、インターンからトップレベルの戦略的採用人材まで、組織に加わるあらゆるメンバーに提供されるべきものです。

全社会議、部署会議で数字を共有する:全社員に会社の財務状況を共有する場を設けましょう。これを行う場としては2種類の会議体が考えられます。まずは四半期毎に開催する全社会議。そしてもう一つが、毎月開催する部署会議です。 より開催頻度の高い部署会議は、参加する人々がより深く財務的な数字を理解する素晴らしい機会です。全社会議、部署会議のどちらも、参加者が安心して、質問したり異議を唱えたりできる空間を作る必要があります。安全な場だと感じられない限り、会社のKPIといったトピックについて個人的な意見を発するという勇気を持つことは難しいでしょう。安全な場を作る上でまず重要なのは、信頼の空気を醸成し、共有する情報について100%の透明性を提供することです。これらの会議は、財務状況の他にも会社の情勢(近況)や業績を社員に伝える機会としても活用することができるでしょう。こういったことを伝えることで、それが良いことだったとしても厳しいことだったとしても、今後取るべきアクションなどについて従業員が心の準備ができている状態を作るのです。

スタッフが会社の数字をみんなの前で発表することを奨励する:会社の数字を発表するといえば、まずは社長や営業部長だったりがすることが多いと思いますが、そのプレゼンテーションを受けて、どんな従業員も質問をしたり異議を唱えたりということを躊躇なく行うよう奨励していきましょう。参加者の立場を変えることで興味深い視点が出てくることがあるため、質問があった数字や異議を唱えられた数字について、参加者側のメンバーが発表を行うよう促します。とはいえ、数字を発表するのは簡単なタスクではありません。発表に含まれる財務データの詳細を理解し、自分の中で完全に咀嚼しなければ、自信をもって数字に関するプレゼンテーションを行うことができません。というわけで、一度発表する立場を経験すると、数字の後ろにある現実をより深く理解できるようになります。例えば、ある月の財務報告のある行で損失が計上されていて、そこに関してあるスタッフが質問をしたとします。そういった質問が出てきたら、プレゼンをしていたリーダーがその質問者に「ぜひその数字について調べて次のミーティングで発表してほしい」と伝えるのです。数字について調べるとなると、その数字に関連する自分の部署の人ともやり取りをするという展開になります。その中で、何が損失をもたらしたのかということが明らかになっていくのです。そうすると、最初は何がどう繋がって損が出ていたのかが分からなかった質問者の中で様々なものが繋がり、組織全体の大きな流れが見えるようになります。そして、バリューチェーンの各パーツが、どうそれぞれに連携し、積みあがって会社全体に寄与しているかが理解できるようになるのです。何より重要なのは、会社の「数字」と呼ばれる業績が、営業だけの責任下にあるものではないということに気づくということです。そうではなく、どんな従業員も一人ひとり、会社の数字にポジティブなインパクトを与えうる存在なのだ、ということが分かるようになります。様々なスタッフが「会社の財務情報を聞くだけの受け手に留まらず、数字を発表する側になること」を促進できれば、従業員のエンゲージメントや当事者意識が向上した未来が待ち受けています。

レポートのデータは厳選して、具体的行動に繋がり得る情報を提供:数字を威圧的なものと感じている人、財務データについてアレルギーがある人は多く、財務情報の共有や教育がなるべくシンプルに、分かり易い形で行われることが極めて重要です。財務についてのプレゼンテーションは、財務に詳しい人間だけでなく、どんな人にとっても分かり易く興味関心を喚起させられるものでなければなりません。そして、本当に皆が知るべき最も重要な数字やKPIだけにフォーカスすることが大切です。従業員が会社の財務状況について知っておく必要があることが、パッと伝わるように。もちろん、数字の細かい所まで把握したいと思っているメンバーがいる場合には、そうできる機会が提供されるべきですが、それ以外のスタッフに共有するレポートにおいて語られるべき数値指標は最大でも6つです。会社が正しい方向に進んでいるのかどうかが分かるような指標を選びましょう。様々なKPIが羅列された発表にしてはいけません。数値データとともに、状況を更に詳しく説明するような定性的な分析が加えられてもよいでしょう。会社の数字が共有されることによって、スタッフ一人ひとりが、自分が組織全体の業績にどうポジティブな影響を与えうるのかということを理解し、自分がどこで価値貢献できるのかを明らかにする。そしてその気づきから従業員一人一人による具体的行動が生まれる、ということが最終的に目指している姿です。

導入難易度

中難度

やるべきこと

– 会社の財務状況についての「大きな絵(俯瞰図)=概要」を見せる

– とにかく全従業員が数字を読めるようになることにこだわる

– 財務的情報について従業員が興味を持てるようなクリエイティブな共有方法を用い、その興味が失われないように定期的に情報共有の場を設ける

やってはいけないこと

– 財務状況の非常に細かいところにまで立ち入った数字や情報を共有する

– 報告の中に沢山のKPIを盛り込みすぎる

– 財務データについて質問したり、異議を唱えたりしにくい空気を作る

メリット

– 従業員の経営者意識(当事者意識)・主体性の向上

– 従業員一人ひとりが企業全体のどんな部分にどう貢献し得るかが示される

– 職場において、スタッフがより深く仕事や同僚とつながりコミットする状態が促進される

デメリット

– 財務情報を透明化することによる、競合にそれが漏洩するリスク

– プロセスに時間がかかる

– 財務に習熟していないメンバーが発表を行うミーティングは望む効果に対しての効率が悪い可能性がある

ケーススタディ(事例)

2014年、ダビ氏はセムコ社のプロジェクトマネジメント部署にジョインしました。入社直後の期間中ずっと、様々なものに疑問を持ち、会社の数字の背景にある「なぜ」を理解することを推奨されたといいます。彼が初めて参加した部署ミーティングでは、チームリーダーによって部署に関係する非常に多くの財務データが共有されました。そこでダビ氏はいくつかの質問をし、共有された数字について疑問を呈しました。チームリーダーは彼の質問に答えた後、ダビ氏に向かって「ぜひ次の部署ミーティングで数字の共有を担当してくれないか」と提案し、ダビ氏はそれに同意しました。

そこから3週間、ダビ氏は何時間もの時間を費やし、部署の財務的数字の一つ一つについてその詳細と真意を理解するために奔走しました。まず、財務諸表にある全ての行についての検証を行い、各行についての真相と背景を知る何人もの人と繋がり直接話を聞く機会を創りました。それぞれの数字を真に理解するという探究を行ったことが様々な人とのやり取りを生み、その結果、沢山ある様々な部署の関係性などについても理解が深まっていきました。同時に、現在直面している課題なども知ることとなり、財務データの後ろにある、なぜ目の前にある数字がその数字なのかという様々な「なぜ」まで腹落ちするに至ったのです。

まだまだ新しく入ったばかりのメンバーではあったものの、部署メンバー全員の前で部署の数字を発表する次のミーティングまでに多くの仲間の時間や後押し、助けや様々な機会を与えられ、非常にしっかりと数字を深掘った理解をすることができました。「そんな数字を理解するための深堀りなどしていないでまず自分の仕事をしろ」などという仲間は一人もいませんでした。そして、彼自身の努力とセムコ社に行き渡っている「互いが互いを助け合い、教え導きあう」メンタリングのカルチャーがゆえに、彼は次のミーティングで自信をもって素晴らしいプレゼンテーションを行うことができました。

そしてこの「次のミーティングで部署の数字を全員の前で発表する」という試みが、何よりも彼にとって職場を理解しチームに溶け込んでいく助けとなりました。自分が関わる事業に関する数字をとことん理解するための自由とリソースを与えられ、数字の奥にある意味を深く理解することができた。それがダビ氏にとっての自信につながり、また、会社・部署の事業についての当事者意識をかきたてました。「所属するチームや部署の一部だ」と自然に感じるようになっただけでなく、同じ感覚を会社全体という組織にも感じるようになったといいます。そしてその感覚が、日々彼が創りだしている組織への貢献の大きな土台となっています。

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セムコ社は、参加型の文化をどのように導入したのか?

2018.11.30

セムコ社は、参加型の文化をどのように導入したのか?
How Semco Introduced It’s Participatory Culture

大企業では多くの場合、従業員は重要な業務を取り上げられたように感じています。

彼らは日々の仕事と業務は持っていますが、より大きなものの達成にことさら努力するほどのやる気を感じたり、
権限を与えられているとは、感じていません。

企業の意思決定権は通常、権限の共有を好まない、極めて少数の人々に委ねられているからです。

 

マネージャーは、従業員は重要な意思決定をするのに十分な準備ができていないと感じることがよくあります。

従業員は権限を与えることによってのみ、権限を与えられていると感じ、

主体性を持って意思決定をしようとするということに、セムコ社は気付きました。

この実行が決定された時、マネジャーや上司をプロセスに関与させませんでした。

そうした人々は最初に反対することを、知っていたからです。

 

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小さな方法で参加への道を開く

Opening Up Participation In Small Ways

彼らは、従業員の階層にかかわらず誰もが関与できる状況を想定することにしました。

もちろんこれは達成に向けて大きな課題でしたが、上層部が喜んで努力し、実現しました。

彼らは、極めて形式ばった組織的なプログラムを作りトップダウン方式で実行するのではなく、

職場で現実に起こるあらゆる機会を見つめ、一定レベルの参加型の意思決定を加え、ボトムアップの決定を促すことにしたのです。

彼らはまた、非常に簡単なことから始めることを決めました。
セムコ社は元来製造会社であり、従業員の大半が工場従業員だったからです。

よって、プログラムを開始するには、非常にシンプルである必要がありました。
そして、この小さな努力によって彼らが得た結果は、信じられないものでした。

以下の事例から得られる重要な教訓は、

従業員は挑戦が好きで、会社で「働く」人というより、むしろ「パートナー」のように感じたい、ということです。

 

意思決定に彼らを関与させることは、従業員が平等に扱われ、より良いことをしたいと意欲を感じるという点で、
会社を開かれたものにします。

彼らは自分の意見が重要であることを理解しており、ゆえに、会社のために答えを見出す過程で成長するのです。

 

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ケーススタディ1:セムコ社初のカフェテリア委員会

 

会社が意思決定プロセスを委任し始めた時、SEMCO社の人事部門のクロビス・ボジキアンは現役の社員でした。

義務と規則の場所から、喜びと大きくポジティブなエネルギーを持つ場所へと職場を大転換することに、
当時大きな関心があったことを思い出します。

ボジキアンは、彼も気づいていたことをリカルド・セムラーが指摘したことを覚えています:「従業員は、ぺしゃんこになった感じでここに来るね-まるで重荷を背負っているかのように。席に着き、昼食の時間までの時間を数え、その後退社までの時間を数えている。そして退社するとき、それは終わる。私は何も感じられない。こうした従業員は、彼らが与えている以上のものを、もっと持っていると思う。だから、我々はこの状況を変え、逆転させる方法を見つける必要がある」 そうリカルドは観察していたのです。

彼は、誰かに動機を与えることはできないと感じています。それが実現する唯一の方法は、内から湧き出た場合です。「動機を持続させなければならないなら、それは心の中から生まれてくる必要がある」と彼は言います。これを認識した上で、セムコ社は人々が意欲を感じることのできる空間を作り始めました。 「そして、私たちは次のことを確立することに決めたのです:毎日の状況を楽しみ、参加することを練習してみよう。簡単なことから始めよう 」 と、ボジキアンは言います。

意思決定に携わるほとんどの従業員が工場で働いたため、シンプルさが重要でした。

「工場階の労働者については、すべてが実行可能でなければなりませんでした」と彼は言い、
まずは単純な問題を利用することにした、と付け加えました。

問題の1つが、カフェテリアについて人事部が繰り返し受けていた苦情でした。
彼らは問題解決に努力してはいたものの、人々が好まない食べ物について、大量の苦情リストがありました。

人事部は、カフェテリアに関する苦情の処理に飽き飽きし、次に誰かが何か不満を述べたら、人事部はもう問題の解決を約束しないことが決定されました。

代わりに、ボジキアンは、苦情を言いに来た従業員に、物事を改善するための提案は何か尋ねました。
苦情を申立てた従業員は、何も言わなかったので、従業員のグループが結成され、アイデアを求められました。

彼らは、自分たちがカフェテリアを営業するなら実行するであろう計画を提出するよう、依頼されました。

数日が経ち、いくつかの議論が行われた後、従業員グループは、ある計画を携えてボジキアンの元に戻ってきました。
しかし、彼は提案を修正するように要請しました。
カフェテリアのキッチンスタッフの意見が、一切含まれていなかったためです。

そのグループは、数名のキッチンスタッフを関与させ、極めて順調に実行しうる計画を持って、ボジキアンの元にやって来ました。
彼がgoサインを出した時、彼らは驚きました。
「セムコ社の最初のカフェテリア委員会に彼らが関与し、そのカフェテリアを1年間運営することを、私は彼らに言いました。そして、1年以内に、我々は別の委員会を選ぶ計画を立てたのです」と彼は言います。

それ以来、セムコ社は二度と、会社のカフェテリアを運営しませんでした。
毎年新しい従業員委員会が選出されたからです。

 

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ケーススタディ2:祝日と祝日(休日)に挟まれた日を有給休暇にする仕組み

不公平なことですが、いつ旅行し、有休を相殺できるか、マネージャーとコーディネーターは正確に知っていました。
たとえば、イースター休日が近づき、休日と週末の間に金曜日があるとします。
彼らは金曜日を有休にし、旅行を計画し、2週間後のある土曜日に当該有休分を相殺するのです。

それは、彼ら個人のカレンダーで事前に計画され、実際に休暇を取る数日前になってやっと、チームに通知されました。
つまり、従業員はこれに同意し、マネジャーに割り当てられた特定の土曜日と相殺する以外に、余地や選択肢はなかったのです。

この種のトップダウンの決定は、2種類の問題を生みました:

従業員はギリギリになって知らされるため、自身が計画を立てたり、その休暇を利用して、旅行に出かけたり物事を済ますことができませんでした。

2つ目の問題は、彼らが家族、宗教、社会的な約束を持っていたため、(マネジャーに命じられて)土曜日に働くことを嫌っていたことです。


これは、従業員と管理職の間に多くの緊張を生みました。

ある日、マネジャーは全従業員を集め、この状況にどう対処するかを尋ねました。

従業員は、解決策を見出すことを自分たちに委ねるよう、頼みました。

 

その後、従業員は自分たちで、また人事部門と協議し、こうした祝日と祝日(または休日)に挟まれた日を相殺するための仕組みを策定しました。

この中には、彼らは以前のように毎週土曜日に働く必要はなく、祝日と祝日(または休日)に挟まれた日を有休にし、6年の間に相殺することが、記されていました。

この仕組みは、こうした日を相殺するために6年間を従業員に与えるとともに、報酬に関しても影響がありました。異なる年には異なる数の休日が存在することを、考慮したのです。
これにより、従業員は発生年度内に相殺し、年度末までにならすことができるのです。

 

しかし、翌年度に繰り越す必要のある2日が存在する場合、これを実施する余地が、新しい仕組みにはありました。よって、従業員は人事部からの見解を携え、この共同決定された解決策を提案したのです。

この仕組みを履行するやいなや、こうした相殺日にかかる問題や苦情は、一切出されなくなりました。

 

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ケーススタディ3:制服の民主主義

セムコ社はある時、制服の在庫が非常に少なく、新しい制服を注文する必要があることに気付きました。
しかし今回は、発注前に、従業員に制服が好きかどうか、彼らの望む制服の色などを尋ねる良い機会だと、会社の上層部は考えました。

そこで、彼らは以下の質問によるアンケートを作成しました:

1. 今の制服を使いたいですか?
2.
 好きな色は何ですか?
3. 好きなモデルは何ですか?

彼らは、工場の壁にさまざまな制服のサンプルを示し、人々の判断を促しました。
セムコ社の5つの工場の全従業員が、何かに投票したのは初めてであり、何かのために人生で初めて投票した従業員もいました。
故に、それは従業員にとって、極めて重要な瞬間でした。

投票後、従業員の98%が現在の制服を使いたいことが明らかになりました。
しかし、色については、明確なコンセンサスが得られませんでした。
すべての色の選択肢に、異なる数の票が投じられたのです。

制服はただ一つの色でなければならず、工場内で虹色はありえなかったため、複雑でした。
彼らはどうにかして一つの色に落ち着く必要があったのです。

「最も人気のある2つの色をとり、この2色の間でもう1度投票してはどうですか?」
と提案したのは、従業員でした。

今度は81%が1つの色に投票し、問題は解決されました。

この選択権の行使は、事業に全く関係がありませんでした。
制服の色は、最終損益に何ら違いを生まないからです。

しかし、そのプロセスは、従業員と会社にとって非常に重要でした。

なぜなら、真の民主主義のように権限と行使する投票権を持ち、
毎日使用する物について発言する権利があるのだと、人々が感じたためです。

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従業員をパートナーに変える

従業員は、継続的に会社に最善を尽くすよう、権限を与えられていると感じる必要があります。

これは、ワークショップや講義だけでは起こりえず、
会社にとって自分たちは重要なのだと彼らに感じさせることによって実現できます。

意見を表明し、意思決定プロセスに関与する余地があれば、彼らは自らがビジネスのパートナーであるように感じ、それに対し、より関心を持つのです。

 

これは、組織が、誰もが重要な意思決定に関与する余地を提供する、
ポジティブで透明な場所であるよう、徹底することになります。

結果、従業員はより良い者になり、成長し、より大きな目標を達成したい、

との決意を持って熱心に取り組むようになるのです。

 

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なぜ社員が設計するワークスペースは、生産性を高めるのか?

2018.11.10


(引用元)Why Workspaces Designed By Employees Inspire More Productivity

セムコ社では、社員に段階的に意思決定の権限を移譲することで、自主経営型組織への進化を図っていきました。

最初に行ったのが、社員が自ら自分の職場を設計するという取り組みです。

なぜ社員がワークスペースを設計するのか?具体的にどのように行ったのか?の事例を紹介します。

概要

平均的な従業員は、毎日少なくとも8時間職場で過ごします。年間だと2000時間、退職までだと5万時間以上です。彼らは人生のかなりの部分を職場で過ごすため、彼ら自身の作業スペースについて意見を言えるようにする事が重要です。

一般に大半の企業では、作業テーブルとその周辺は自分の好みに合わせてアレンジすることを許可しています。

彼らは家族の写真、奇抜なペンホルダーやカレンダー、小さな鉢植えや一輪挿しなどを通じ、自らの個性と創造性を表現しています。

従業員のために、従業員によって

For The Employees, By The Employees

しかし、これらの小さな自由は、同僚との協業を促進するものではなく、職場環境全体に大きな影響を与えるものでもありません。

ワークスペースを自分流にアレンジするのに充分な創造性を、誰もが持っている訳ではないものの、ワークスペースを全体的にアレンジすることの恩恵は、誰もが享受することができるように留意することが重要です。

職場環境がインスピレーションを与え、そこで働く人々のニーズと結びつくとき、それは仕事の質にプラスの影響を与えます。

生産性と職場環境が密接に結びついていることをより多くの企業が認識する中、より良い作業空間を設計するための投資を見過ごすことは、もはや不可能です。

しかし、こうした決定の多くは、作業チームの主要メンバーとの協議や、人事部への委任の下で行われます。その際に、ワークスペースの設計は会社の決定であるのと同様、従業員の意思決定が必要であるということを、経営陣は忘れているのです。

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ケーススタディ1:再利用されたセムコ社ラウンジ

セムコ社の工場の従業員はある時、リサイクルやゴミに投げ捨てられる材料の再利用をしようとしました。

彼らは、木製のパレット、ダンボール箱、その他のリサイクル資材のような材料を使って、自分たちのためのラウンジスペースを作りました。

業務時間内にくつろぎ、職場で一杯飲んだり、バーベキューをするためのスペースをつくることを計画したのです。また、職場環境を改善するため、工場周辺の空きスペースや庭を美化する計画も立てました。

表面的には、このプロジェクトは利益や貯蓄を会社にもたらすことはないでしょう。

もっと言えば、生産チェーンやその他の業務慣行を最適化する提案でもありませんでした。

そうではなく、職場における労働者のクオリティ・オブ・ライフを向上させることを、まさに意味するものであり、セムコ社はこれを高く評価し奨励する必要があると感じました。

そこで、工場の労働者たちは思い切って、小さなテーブル、椅子、ハンモックの置かれた、休憩やリラックスできるクールでカラフルなラウンジスペースを作ったのです。

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ケーススタディ2:オレンジは新しいブルーです

セムコ社の現在のCEOは、会社が新しい建物を購入し、それを改装したときの事件を思い出します。

彼らは、受付エリアの壁の色について、決定を下さなければなりませんでした。

セムコ社のカラーは青であることから、壁を青く塗ることが明らかに決定されていたでしょう。

しかし、従業員はこの決定への関与を希望する決断をくだし、壁の色を選ぶ3人委員会を設置しました。

CEOは、受付エリアのそばを次に歩いたとき、壁がオレンジ色に塗られたのを目にします!

彼は当惑し、関係する従業員に「なぜ壁をオレンジ色に塗ったのかね?」と尋ねました。

彼が得た返答は、

「自分たちで色を選びたかったのです。だから、私たちはオレンジを選んだのです! 」

CEOが受付に出ることは殆どなく、彼がどんな色を好むかは問題ではないことを、彼はその事件によって認識しました。

従業員はそのスペースで働く必要があり、彼らが好きで、自分の周りに見たい色である必要があるため、それは従業員の選択でなければならないのです!

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大きな影響を伴う小さな変化

Small Changes With Big Impact

この2つの事例は、会社と従業員にとって大きなメリットを生み出す可能性のある、WIN-WINの意思決定の事例です。

率直に言えば、最終損益と日々の管理に対するこれらの決定の影響は、ごくわずかです。

しかし、多くの普通の企業において、オフィススペースをどのようにすべきか最終決断を下すのは、マネージャーや上層部のリーダーです。-彼ら自身がそうしたスペースで仕事をする可能性は、極めて低いのにもかかわらず-

つまり、こうしたトップダウンの決定の実行に会社の資金を費やすのではなく、

自分の職場環境で望むものと望まないものを従業員が決定することによる利益を、むしろ組織は享受することができるのです。

小規模な参加型の意思決定は、従業員間の責任感と当事者意識を高めます。

一般的な考え方とは対照的に、自分たちのワークスペースをどのようにするかを決めることにおいて、従業員が完全な自主性を持つことは、彼らに大きな影響を与える一方、ビジネスにはほとんど影響しません。

そしてこれは、あまり多くの人々の機嫌を損ねず、と同時に関わる利益を保守派に示しつつ、参加型の意思決定の文化を紹介するための、簡単な初めの一歩なのです。

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